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vol.24-1

こころに重きを置いた医療

両親は瀬戸内海に浮かぶ島の開業医。

 

いつも島の患者さんのことが頭にあり、たまの休日に家族で遊びに出かけてもナースコールがあるとすぐに飛んで帰るような医師でした。一泊二日以上の家族旅行はしたことがありませんでしたが、おさなごころに、寂しいというよりも、医師である両親は人のため、世のために生きているのだなと感じていました。親身になって診療する両親の姿を見て、漠然と両親と同じ職業に就きたいと思うようになりました。
 

子どもの頃から踊ることが好きで、3歳からクラシックバレエを習い始め、中学生からは大好きなアーティストの影響でストリートダンスにハマり、中学・高校はダンススクールに通っていました。ダンススクールに集まるのはキャッキャした元気な女子たちが多く、どちらかというと陰キャな私は陽キャの彼女たちの輪に入れず、隅で黙々と練習するようなタイプでした。医学部受験のため文系から理系へのクラス替えの際も当初はうまく周囲に馴染めなかったのを覚えています。


こうした「人となんとなく上手く関われないような感覚」や「将来への漠然とした不安」という、思春期らしい悩みを抱えていた高校生の頃、「人生とは」「人はどう生きるべきか」といったテーマを扱う倫理の授業が好きでした。

 
ソクラテスの言葉に「無知の知」という言葉があります。「何が一番大事なのか、何が真理なのか」ということについて、私も、彼らも、分かっておらず、分かっていないことを自覚することが大事という意味で、自身が持っている知識や今の世の中で常識とされているものにとらわれず、自分の無知を自覚し、頭が凝り固まらないように意識することが大切-。倫理の授業で、こういった偉人たちの哲学に触れるうちに「人のこころ」に興味関心を抱くようになりました。
 

日々のもやもやとした悩み、授業で習って感じたことなどの話を親としていると、「だったら、こころを扱う医師である精神科医が向いているかもね」というアドバイスを受けて精神科医をめざすように。
 

ただ、医学部をめざしてはいたものの、もともと理系科目が苦手で大学受験ではかなり苦労しました。倫理や歴史など文系科目は好きだけど、医学部志望だから苦手な数学や物理を勉強しなければいけない…。勉強しなくても好きな文系科目の点数は良いけど、理系科目は成績が伸びない…。将来は精神科医になることをモチベーションに、理系科目の勉強は今だけ!と念じながら自身を奮い立たせていました(笑。実際、医学部に入っても数学や物理から離れられることはなかったのですが、無事に合格することができました。
 


大学入学後も興味関心事は変わらず、精神神経科の講義が最も魅力的な授業でした。医学部5年生の臨床実習での一番の思い出は、精神科外来の診察に陪席したときのこと。

 

診療室では、それまでご家族としか関わらずに生きてきた患者さんが親御さんを亡くされ、抑うつ状態で自暴自棄な発言を繰り返されていました。普段はひょうひょうとされている精神科医の先生でしたが、その状態の患者さんに声掛けされた言葉に熱があり感情が乗っていて、後ろで聞いていた私も涙ぐんでしまったほど。それでも診察が終わると、患者さんの病状を分析されたことを学生の私たちに教えてくださいました。患者さんに寄り添いつつ冷静に診断、治療ができる精神科医になりたいと思ったことを鮮明に覚えています。
 

精神科医になった今も、人のこころに重きを置いて医療ができることにやりがいを感じています。

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オススメの一冊

『B A S A R A』

SFマンガ/発行:2002年2月/著者: 田村由美/出版: 小学館
 
中学生の頃から大ファンの安室奈美恵さんが本作品をテーマにしたアルバム曲がリリースされたことがきっかけで読み始めたマンガです。現在の文明が滅んだ後の日本を舞台にしたストーリー。主人公だけではなく登場するキャラクターすべてに背景や葛藤や願いがあり、それぞれがいろんな思いを抱えて行動することで信頼や憎悪が生まれていく物語。少女マンガですが綺麗事だけでは終わらない、大人になった今でも何度でも読みたくなる作品です。

<この記事を書いた人>

Kado Tomoyo
精神科医
角 朋世
Kado Tomoyo
略 歴
広島県出身。瀬戸内海の島で開業医を営む両親の背中を見て育ち「人のこころに関わりたい」と精神科医を志す。川崎医科大学医学部を卒業後、上京。東邦大学医療センター大森病院での研修医を経て、同大学医学部精神神経医学講座に入局。現在は大学病院や精神科病院にて精神科外来や病棟での診療業務を中心に、保健所での相談業務、産業医、都立高校の学校医に携わる。思春期から成人期、老年期にいたるまで、あらゆる年齢層の診療にあたる。
専門分野
精神医学一般
趣 味
ダンス/音楽(ヒップホップ系) /マンガ

3歳からクラシックバレエを始め、中高はストリートダンスにハマり、大学ではダンスサークルに所属していました。今はダンスを“観る”方が多くなりましたが、音楽を聴きながら身体を動かすことは大好き。マンガは電子書籍でいろんなジャンルを楽しんでいます。
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